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インゲンマメのために働く(Travailler pour des haricots)

投稿日:2022年12月19日

こんにちは。バゲットです。

もうすでに20年近く昔になりますが、私は一時、テレビドラマや映画のエキストラをして遊んでいたことがあります。NHKの大河ドラマでは「新撰組(香取慎吾主演/2004年)」と「義経(滝沢秀明主演/2005年)」に「出演w」し、その翌年のものには出ていませんから、2004年の夏休み(←これは確か)に始めて、1年と少し続けたようです。

どのような経緯と発想で始めたのかは、全く覚えていません。ただ、子供のころから俳優には憧れていたので、ある時、ふと思い立って、ネットでエキストラ・プロダクションについて調べたのでしょう。その後、実際に三つのプロダクションに赴いて、エキストラ登録したことははっきりと記憶しています。

仕事で撮影現場に入って、有名な俳優さんたちを間近に見られるのはなかなか楽しかったです。美人女優さんたちにも何人かお会いしました。「こちらから話しかけてはいけない」というルールがあって(相手が話しかけてきたときは対応していい)、当然、口をきいたことはありませんが。驚いたのは、「中堅」と思われる俳優さんたちが、私と同じエキストラとして来ていたこと。実際、普段あまりテレビを見ない私でも知っている俳優さん三人にお会いし、うち二人とは直接お話もしました。そのレベルの方たちでも恒常的に「俳優」の仕事があるわけではなくて、アルバイトでエキストラをしているようです。

ただし、報酬は「最悪」で、最低賃金をほんの少し上回るだけ。一般的な衣装(スーツ)と備品(カバン、帽子、手袋など)は自腹で、集合場所までの交通費も支給されません(註・遠方の場合は別)。さらに紹介手数料(あるプロダクションでは月額1000円、別の所では毎月最初の3回だけ500円ずつでした)を徴収されるので、月に数回働くだけでは、給料は事実上最低賃金を下回ってしまいます。当時の私はことさらお金に困っていたわけではなく、趣味と「小遣い稼ぎ」でやっていたのでそれでよかったのですが、本当にお金を稼ぎたいなら、普通のアルバイトをした方がずっとよいと思います。

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さてフランス語に“travailler pour des haricots/インゲンマメのために働く”という表現があります。いつものようにネットで調べてみると(Travailler pour des haricots (expressions-francaises.fr))、“travailler pour rien ou pour un salaire insignifiant/無給あるいは僅かな給料のために働く”とあります。まさにエキストラの仕事がそうですね。

上のサイトによれば、ゲームでインゲンマメが「enjeu fictif/虚構の掛け金」(現代なら、例えばプラスチックのコインのような)として使用されたことから来ている、とあります。起源については別の解釈もあって、それによれば、フランスでは全くあるいはほとんど価値のない物を「navet/カブ(小説や映画で『駄作』の意味がある)」や「radis/ラディッシュ(『僅かな金銭』の意味もある)」のような「一般に取るに足りない作物」と比較する習慣があって、「インゲンマメ」もそのような「作物」の一つだから、ということです。

Travailler pour des haricots

「インゲンマメ」の他にも、“pour des prunes/プラムのために”、“pour des clous/釘のために”、 “pour des cacahouètes/ピーナッツのために”、“pour des nèfles/セイヨウカリンのために”もあるようです。

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私の実家は千葉の兼業農家で、今でも老いた母親が(弟も少し手伝いますが)お米と野菜を作っています。米(riz)と梅(prunes)と栗(marrons)以外の野菜はほとんどが自家用で、その中にはインゲン豆(haricots)とピーナッツ(cacahouètes)が含まれます。

自分の身内が文字通り「エンドウ豆/梅/ピーナッツのために」働いていると考えると、苦笑を禁じ得ません。フランスでインゲンマメ/プラム/ピーナッツ/セイヨウカリンを生産している農家の方々は、これらの表現をさぞかし苦々しく思っていることでしょうw。

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