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それは中国語だよ!(C’est du chinois !)

投稿日:2023年12月19日

もう40年以上も昔のことですが、私が大学生のとき、授業は今のようなセメスター制ではありませんでした。それは全て「通年」で、語学など一部の授業では「前期試験」がありましたが、基本的には学年末に試験かレポート提出があって、それで成績がつくシステムでした。そんな時代、私が一年生のときに選択した「社会思想」の授業は、夏休みに「自主レポート」(←出しても出さなくてもいい)を提出すると必ず「S」評価が貰える、「楽勝科目」とされていました。「レポート」の課題は特に指定されておらず、授業に関係することなら何でもよかったように思います。

私は担当講師の著作である教科書から、「カミュ=サルトル論争」(註・ソ連の共産主義を巡ってアルベール・カミュとジャン=ポール・サルトルとの間でなされた論争)についての章を選び、それについて書こうと考えました。で、教科書を読んでみたのですが、これが全く理解できないのです。本当に、さっぱり分からない。当時19歳の私にとって、哲学・思想関係の本を読むのは、それが初めてだったのです。とは言え、レポートは何としても書かなければなりません。結局、分からない中から「分かったような気がするw」箇所だけを繋げて、「多分、こういうことが書いてあるのだろうw」と「想像w」し、稚拙きわまりない事柄で原稿用紙(←当時はパソコンがなかったので、手書きです)5枚を埋めて、提出したのを覚えています。

続いて、その年の秋のこと。当時私は、クラスの友人たちで作った「読書会サークル」に所属していて、毎月一回、同じ本を読んで集まって、皆でその内容について議論していました。そして私たちが11月のテキストに選んだのが、サルトルの小説『嘔吐』だったのです。「まぁ、小説だから、読めば分かるだろう」と考えたわけですが、実際に読み始めてみると、全く分からない。かと言って放り出すわけにもいかず、分からない中を三分の一ほど読んで、いざ読書会に臨むと、メンバーの4人が4人とも読了していないのですw。結局、一週間延期することにして、その日は雑談だけして別れました。で、一週間後に再集合すると、このときもまだ誰も読み終わっていないww。さらに一週間延期して、三度目の会合では、さすがに皆最後まで読んでいましたが、誰も内容を「議論」できるほど理解できていないのです。最終的に全会一致で、「よかったね」(←これは「本音」です)と「結論」を出し、こうして私たちの「『嘔吐』読書会」は幕を閉じたのでしたwww。

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さて、フランス語に“C’est du chinois/それは中国語だよ”という表現があります。例の通りネットで検索してみると( wiki “c’est du chinois” )

“se dit pour quelque chose d’incompréhensible, de compliqué, d’abscons/理解不可能、複雑、難解な何かについて言われる”とあります。別のサイトでは“c’est complètement incompréhensible/それは完全に理解不可能だ”。要するに、難しすぎて理解できないことについて言うわけですが、用例を見ると必ずしも「難解・複雑だから理解できない」ということではなく、「言っていることが支離滅裂で分からない」とか「やることなすことメチャクチャで行動原理が理解不可能」など、相手を非難・批判するような文脈でも使えるようです。

c'est du chinois

18世紀の終わりから使われている言い回しだそうですが、「由来」については説明するまでもないでしょう。フランス人にとって中国語は、その発音や語彙や文法以前に、まずその文字体系(=漢字)からして、「理解不可能」でしょうから。

“C’est du chinois pour moi/それは私にとっては中国語だよ”のように、“pour moi/私には”を入れて使うことも多いようです。

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私は大学三年時、「フランス思想文学」というタイトルの講義を受講しました。担当教師は後に大学院で私の指導教授となるT先生です。この授業で春学期に扱ったのがサルトルの『嘔吐』で、三ヶ月間、先生による詳細な解説を聞いて、夏休みに小説本文を再読してみると、何と(!)「理解できる」のです。さらに翌年の春休み、卒論のテーマをサルトルに決めたこともあって、一年生のとき選択した「社会思想」の教科書を再読して、ひどく驚きました。「この本、こんなに易しかったの?」と。本当に、二年半前にはあれほど難解に感じた書物が、ひどく平易に思えたのです。

このブログを読んで下さっている方の中には、大学の教養課程で、教科書の難しさに戸惑っている方、専門課程に入って専門書の難解さに途方に暮れている方もいるでしょう。でも、だからと言って、「こんなの中国語じゃん/C’est du chinois !」と投げ出してしまってはいけません。決してあなた方に能力が欠けているわけではなく、単にまだ十分な訓練を積んでいないだけなのです。

専門書には専門書を読むための「技術」があり、それは「訓練」を受けなければ身につけることはできません。今は理解できない書物でも、根気よく読み続ければ、いずれ分かるようになるでしょう。頑張って下さいね。

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