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インゲンマメの終わり(C’est la fin des haricots)

投稿日:2023年9月4日

こんにちは。バゲットです。

もう20年以上も昔のことですが、文部科学省からの派遣で、カーン大学(l’Université de Caen-Normandie)にてフランス語の教育研修に参加したときのこと。世界中から参加している研修生たちは皆、母国では「教師」だということもあるのか、キャンパス内にいくつかあった学生食堂の一つが研修生専用に割り当てられ、私たちには一般の学生よりも「贅沢な」食事が提供されていました。

料金は全額フランス政府が負担する研修費に含まれていて、私たちにとっては実質無料です。もう昔のことなので詳細は記憶していないのですが、昼食・夕食では毎回、キッチンの前に並んだいくつもの品々の中から、野菜の煮込み一品、肉または魚二品、デザート一品(+パン、バター・ジャム・ママレード、飲み物)を選ぶことができて、野菜にはお米(riz ←「野菜」です)、ジャガイモ(pommes de terre)、ニンジン(carottes)、インゲン豆(haricots verts)、ホウレンソウ(épinards)などがあったように思います。私は特にインゲンマメとホウレンソウが好きで、いつも大量に(!)取って食べていました。おかげて、1ヶ月で3キロも太ってしまいましたがw。

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さて、フランス語に“la fin des haricots/インゲンマメの終わり”という言い回しがあります。ネットで検索してみると(https://www.expressio.fr/expressions/la-fin-des-haricots)、“la fin de tout/全ての終わり”、“la perte complète d’espoir/希望の完全な喪失”。要するに、「失敗・挫折・敗北等が確定した状態」を指して言うのでしょう。多くは「もうダメだ」「万事休す」という意味で、“C’est la fin des haricots/これはインゲンマメの終わりだ”の形で用いられるようです。

インゲンマメの終わり(C’est la fin des haricots)
インゲンマメの終わり(C’est la fin des haricots)

「具体的にどんなときに使うのだろう」と、これもネットで調べてみると、いろいろな例が見つかります。たとえば、サッカー・ワールドカップでフランスのナショナルチームが負けたとき、経済危機で会社の売り上げが激減し、倒産が必至となったとき、学生にとって留年が避けられないときなど、一口に「もうダメだ」と言っても、深刻さの程度には大きな幅があります。要するに、負けや挫折が決定的な状態になったのなら、たいていのケースで使えるのでしょう。

20世紀の初頭に生まれた比較的新しい表現ですが、その由来には諸説あるようです。航海中の船乗りの食糧として、インゲンマメさえ無くなることは「もう食糧が無い」ことを意味する、という説。寄宿舎や刑務所では財政的に苦しくなるとインゲンマメを食べていて、そのマメが無くなることは「もう食べ物が全く無い」ことになる、という説。家族や友人でするゲームの「掛け金」として乾燥したインゲンマメを使っていて、マメが無くなるということはゲームの負けを意味した、という説。皆それなりに説得力がありますが、どれが正解なのかは分からないそうです。

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ここでも何度か書いたように、私は大学入試に失敗し、浪人した上で滑り止めの大学に入学しました。そのときは「もうインゲンマメが終わった/C’est la fin des haricots」と思いましたが、こうして初老と言われる年齢になってみると、今でも好きな研究を続け、数年に一本は論文を発表し、それなりに満足できる人生を生きています。

友人達を見ても、大学院の入試に合格できなかった者、修士論文が書けずに中退した者、修士は出たけれど博士課程の入試に何度も失敗し諦めた者など、恐らく本人にしてみれば、「インゲンマメが終わった」と感じたであろう人たちは、たくさんいます。しかしそんな彼らも、その後、フランス政府の出先機関に就職したり、大手予備校でスター講師になったり、地元に帰って学習塾を開いて成功したりと、皆それぞれ、そんなに悪くない人生を送っているようです。

結局、人間は生きている限り、完全にインゲンマメが終わることは決してない、ということなのでしょう。

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