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ワインを抜いたら・・・(Quand le vin est tiré…)

投稿日:2023年7月25日

こんにちは。バゲットです。 もう35年も昔のことになりますが、私が初めてフランスに行ったとき、驚いたことの一つはお酒がすごく安いことでした。 私は毎晩(ほとんど例外なく!)床につく前にお酒を飲むのですが、そのころ飲んでいたのはもっぱら日本産の安いウィスキー。当時、日本政府は洋酒の輸入に高額の関税をかけていて、スコッチやバーボンはボトル一本が最低でも4000円~5000円(買ったことが一度もないので、ただの想像ですがw)もしました。大学院生だった私にはとても手の出る代物ではありません。それがフランスに来てみると、近所のスーパーで日本円に換算して1000円~1500円程度で買えるのです。私は文字通り「狂喜」し、最初のころはスコッチばかり飲んでいたように思います。 しかし、わざわざフランスまでやって来て、もっぱらイギリスのウィスキーを飲むというのも奇妙な話です。そこで、しばらくして寝酒はワインにシフトしたのですが、こちらもウィスキーに輪をかけて安い(!)のです。私は(恐らくほとんどの日本人と同様に)フランス製のワインと言えば「高級」というイメージを持っていたのですが、スーパーでは一本10フラン(=当時のレートで250円くらい)程度で売っています。こうして、毎晩寝る前にワインをボトル一本空けるのが、私の習慣になったのでした。 ※ さて、フランスには“Quand le vin est tiré, il faut le boire/ワインの栓を抜いたときには、飲まなければならない”という「ことわざ」があります。「栓を抜いたら」と訳しましたが、正確には“tirer le vin”は「(樽の栓を抜いて)ワインを樽から汲み出す」ということです。

 

Quand le vin est tiré

いつものようにネットで検索してみると(https://www.expressio.fr/expressions/quand-le-vin-est-tire-il-faut-le-boire)、“Il faut aller au bout d’une affaire dans laquelle on s’est engagé/一旦始めた仕事はやり遂げなければならない”。あるいは別のサイトでは、“se dit en parlant d’une affaire où l’on se trouve trop engagé pour reculer/コミットしすぎてもう退却はできない仕事について話すときに言われる”。要するに「一旦始めたことは最後までやり通しなさい」という人生訓のようなことを意味したり、「ここまで来たらもう後には引けない」という、引くに引けない状況を指して言うのでしょう。

私もフランス文学・哲学の学会で末席に名を連ねる者として、定期的に論文を発表しています。若いころは、ポストを見つけるために「研究業績」を作らなければなりませんでしたし、指導教授(←その分野では「権威」とされる有名な先生でした)の厳しい目もあったので、毎年必ず一本か二本は大学関係の雑誌に投稿していました。初老と言われる年齢に達した現在では、ペースは多幅に落ちましたが、それでも二~三年に一本は発表するよう努めています。で、そのように論文を書く際に最も高いハードルとなるのは、「覚悟を決めて書き始めること」なのです。実際、一旦書き始めてしまいさえすれば、たとえ苦労しても(てか、大抵は苦労しますがw)、何とか最後まで書けるのです。

それは本を読むときも同様です。読みたいと思って購入し、そのまま「積読」状態になっている恐らくは10000冊近くある書物の中から、「次はこれだ!」と決意して読み始めるまでに、何ヶ月も何年も、時としては何十年もかかる(←実話)。こちらも、実際に読み始めてしまえば、その後「読む価値なし」と判断したものを除いて、大抵は最後まで読み切れます。

実を言えば、このブログについても同じです。一番大変なのは、テーマを決めて書き始めるまでで、一旦書き始めてしまえば、普通は最後まで書ける。

そういう意味で言うのなら、今回の「ことわざ」、“Quand le vin est tiré, il faut le boire/ワインの栓を抜いたときには、飲まなければならない”は、私にとってはごく自然なことで、むしろ本当に大変なのは「ワインの栓を抜くこと」自体なのかもしれません。

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