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仕事の死刑執行人(bourreau de travail)

投稿日:2024年4月3日

こんにちは。バゲットです。

すでに何度か書いたように、私の実家は兼業農家で、父はJA(=農協)の職員でした。平日はサラリーマンとしてフルタイムで働き、土曜の午後(当時はまだ週休二日制ではなかったので)と日曜は農業に携わっていたわけです。

私が幼かったころは、父は比較的早めに帰宅して、夕方7時頃には家族8人(!)で食卓を囲んでいましたから、JAの仕事はほぼ定時に終わっていたのでしょう。しかし、私が高校生になったころ、金融部門に移動して大幅に残業が増えたようで、父の帰宅が急に遅くなったのです。祖父母と曾祖父は早めに夕食を済ませ、両親と私たち三人兄弟は、父が帰るのを待って、いつも9時ごろに夕飯を取っていました。都市銀行の行員と比べればずっとマシなのでしょうが、私の父は一日10時間以上も仕事をしていたことになります。

さて、兼業農家ですから、土曜の午後と日曜は農業です。実家は地域では有数の「豪農」だったようで(祖父がよく自慢していました)、かなり広い田畑を有しています。平日の畑仕事はまだ現役だった祖父母と母が担っていましたが、田植え、稲刈り(+コンバインがなかった時代は「脱穀」まで)、果樹(梅、栗、柿その他)の収穫などは父が中心となって、家族総出で働きます。私自身は中学生になると、「勉強」を理由に(w)手伝わなくなりましたが。

都会出身の方はご存じないでしょうが、意外と大変なのが「草刈り」です。果樹園も田圃のあぜ道も、放置しておけば雑草が伸び放題で入れなく(あるいは通れなく)なってしまうので、定期的に草刈りをしなければならないのです。こうして、私の父は終始働き詰めで、本当に休息を取ったり、余暇に当てたりできる「休日」は、一ヶ月に一日あるか無いかだったように思います。

さて、フランス語に“bourreau de travail/仕事の死刑執行人”という表現があります。例の通りネットで検索(bourreau_de_travail)してみると、“Celui qui travaille de manière excessive/過剰な仕方で働く人”。別のサイトでも“individu travaillant beaucoup/たくさん働く個人”とありますから、働き過ぎの人を指して言うわけです。日本語では「仕事の鬼」、もしくは「仕事中毒/ワーカホリック」に当たるでしょう。

être un bourreau de travail

実際、ネットで“bourreau de travail/仕事の死刑執行人”の用例を探してみると、この言葉が「両義的」であることが分かります(https://www.lesechos.fr/2016/01/je-suis-un-bourreau-de-travail-et-jaime-ca-194455)。一方で「仕事を生きがいにしてバリバリ働く人」というニュアンスでの使い方がある。上のリンク先(↑)のタイトルにあるように、“Je suis un bourreau de travail et j’aime ça/私は仕事の死刑執行人で、それが好きなんだ”といったケースです。彼らはもっぱら“leur libre choix/自分の自由な選択”によって働いているので、疲れることを知りません。

他方で、“la crainte de ne pas être à la hauteur/有能でないことへの恐怖”から、追い立てられるように働く人たちがいます。彼らは自分の仕事が「生きがい」ではないので、仕事自体からエネルギーを補給することはない。だから彼らは“s’épuisent/疲れ果てて”しまいます。

フランスと日本では仕事に対する考え方や一般的な職場環境は大いに異なりますが、「働き過ぎ」に二通りあるという点は共通しているようですね。

さて、私自身の職業生活について言えば、私はフランス語の教師であると同時に、フランス哲学の研究者(直近の論文ではアメリカの道徳哲学を扱いましたが)であるという、「二面性」を持っています。学期中は、火曜から金曜は授業とその準備(+課題の採点等)に忙殺されて新聞を読む時間も十分に取れません。私は大学2年の夏、新聞は隅から隅まで(スポーツ面等、エンタメ関係の記事は除いて)読むことを心に誓ったので、土曜日は当日の新聞の他に、その週の新聞の読み残した記事を読むことになります。これで丸々一日が潰れることもある。以上に加えて、フランス語と英語の語学研修(週に3~4回)にも時間を使います。自分の研究に当てられるのは日曜と月曜だけになりますが、かといって一日中本を読んでいられるわけではありません。上記の新聞と語学研修に加えて、掃除、洗濯、炊事も自分でこなさなければなりません(一人暮らしなので)。このように、私は毎日10時間程度、必ず何らかの仕事をして、本当に休めるのは年に数回、実家に帰ったときだけです。それでも、特に「忙しい」という感覚もありません。私も生粋の“bourreau de travail/仕事の死刑執行人”だということでしょうか。

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