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トマトのように赤い(rouge comme une tomate)
投稿日:2019年10月29日
こんにちは。バゲットです。
私が子供のころ、千葉の農村地帯では三世代、四世代が同居するのが当然で、私も幼年時代は曾祖母・曾祖父に子守をされて育ちました。保育園に通うようになったのは、5歳の四月。小学校に入学する一年前です。
保育園は私の家からは2キロ以上も離れた大きめの集落にあって、その周辺に住んでいる子供たちはお互いに知り合いで友達も多かったのに対し、私には「友達」と呼べるような者は一人もおらず、入園当初はいつも寂しい思いをしていました。
まだ四月だったかもう五月に入っていたのか、強い雨が降ったある日、私は母が買ってくれた水色の雨ガッパを来て、保育園に行きました。園に着いてカッパを脱ぐと、皆が私を見て大笑いする。最初、なぜ笑われているのかわからなかったのですが、下を見ると、私はカッパと一緒にズボンまでも脱いでいたのです。自分で自分の顔が赤くなるのが、はっきりとわかりました。「恥ずかしい」という感情を生まれて初めて感じたのは、あのときだったように思います。
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さて、フランス語には、「トマトのように赤い(rouge comme une tomate)」という言い回しがあります。恥ずかしさや怒りで顔が赤くなったとき、たとえば、“Elle est devenue rouge comme une tomate(=彼女はトマトのように赤くなった)”のように用います。
「トマト」の他にも「雄鳥(un coq)のように」「サクランボ(une cerise)のように」「ヒナゲシ(un coquelicot)のように」「シャクヤク(une pivoine)のように」「ザリガニ(une écrevisse)のように」「ロブスター(un homard)のように」もあるそうです。
形容する対象が男性か女性かによって、また赤くなる理由が怒りなのか恥ずかしさなのかによって、使い分けが必要になるでしょう。私のような中年男が恥ずかしさで顔を赤らめるとしても、「ヒナゲシのように」とは言わないww、ということです。
ですから、たとえば「彼は激怒した」は、“Il est devenu rouge comme un coq(=雄鳥のように)”で、若い女性について「彼女は頬を赤らめた」なら、“Elle est devenue rouge comme une cerise(=サクランボのように)”ですね。
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さて、話は飛びますが、トマトの原産がアメリカ大陸であることは、ご存知の方も多いでしょう。メキシコで栽培されていたのを、16世紀にスペイン人の征服者たちがヨーロッパに持ち帰ったのです。最初は観賞用で、その後イタリアや南フランスで食用にされていたのですが、フランス革命の際に南仏から人々が大挙パリに押し寄せて、その結果フランス全土に普及したそうです。
そんなトマトは、今やフランス料理には欠かせない食材の一つ。ニース風サラダ(salade niçoise)等のサラダにも用いますし、ラタトゥイユ(ratatouille)の材料としても不可欠ですし、またケチャップやソースを作るのにも必要です。
ジャガイモ(pomme de terre)もアメリカ大陸が原産ですが、やはりフランス料理では重要な食材です。他方、人気料理のクスクス(couscous)は北アフリカが起源で、第一次世界大戦中に工場労働者が大量に不足して、当時植民地だったアルジェリアから多くの人々を呼び寄せたことで、フランス本土に広まったものです。
そのように考えると、世界に誇るフランス料理も、決してフランス一国だけで確立されたものではないことがわかります。「正統派」と言われるフランス料理も、ちょっと歴史を遡れば、他国や他地域との交流によって生まれた「バイブリッド(hybride=雑種)」だったのですね。