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イヌのように(comme un chien)
投稿日:2019年8月5日
こんにちは。バゲットです。
一ヶ月ほど前に書いた“avoir d’autres chats à fouetter(他に鞭打たなければならないネコがいる=他にもっと重要な仕事がある)”を始めとして、“donner sa langue au chat(自分の舌をネコにあげる=[クイズなどで]降参する)”、“avoir un chat dans la gorge(喉にネコがいる=声がしわがれる)”等々、当ブログでは、これまで「ネコ」を用いた慣用句をいくつか紹介してきました。
他方で、「イヌ」を含む言い回しはまだ一つも扱っていません。そこで今回は、「イヌ」を用いた表現について書きましょう。
まず、すぐに思いつくのが“comme un chien(イヌのように)”。いろいろなところで見たり聞いたりするように感じていたのですが、ネットでこの表現を検索してみると、動詞や形容詞を伴った形はヒットするものの、この言い回し単独ではほとんど出てきません。手元の『ミクロ・ロベール』でも同様です。広く一般的な意味で使用できるわけではなく、一緒に使える動詞や形容詞が限られているのでしょう。
で、仏和辞典を引いてみると、「(犬のように)ひどく」(『クラウン仏和辞典』)、「ひどく、惨めに」(『プチ・ロワイヤル仏和辞典』)とあって、例文として挙げられているのは、“malade comme un chien(犬のように病気だ=ひどく具合が悪い)”、“traiter/tuer/vivre/mourir comme un chien(犬のように[手ひどく]扱う/[冷酷に]殺す/[孤独で惨めに]生きる/[のたれ]死ぬ)”など。念のためネイティブ何人かに確認してみましたが、たとえば「イヌのように貧乏だ(pauvre)」とか「イヌのように醜い(laid)」とは、普通、言わないそうです。 ご参考までに、ドイツの作家フランツ・カフカ(Franz Kafka)の小説『審判』(Le Procès)の末尾で、ナイフで心臓をえぐられた主人公は、「イヌのようだ」と言いながら死んでいきます。ドイツ語にも同様の言い方があるのでしょう。
さて、類似した表現で“de chien(イヌの)”があります。名詞につけて、「ひどい、惨めな、つらい、大変な」を意味する形容詞句です。これも例文を調べてみると、“temps/vie/mal/travail de chien(イヌのようにひどい天気/惨めな暮らし/ひどい痛み/つらい仕事)”等々が見つかります。こちらもネイティブに確認しましたが、修飾できる名詞は限られているようで、たとえば「ボロボロの服」を指して「イヌの服(vêtements)」、「粗末な家」を意味して「イヌの家(maison)」などとは言わないとのことでした。
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千葉の私の実家でネコを二匹飼っていることはここにも書きましたが、それ以前はイヌを二匹飼っていました。
15年ほど前、近くの山の中に捨てられたらしき真っ白な子イヌがやって来て、実家で飼うようになり、放し飼いにしておいたら(←実家は山の中の一軒家なので)一年半ほどで家出してしまって、寂しがった両親がペットショップで白い柴犬を購入したところ、家出したイヌが骨と皮だけになって帰ってきてw、二匹になったのです。
二匹とも家の外で飼っていたので、真冬になると朝には頭から尻尾まで霜が降りていました。詳述はしませんが、一方は大雪の降った翌朝、迷子になって交通事故で、もう一方は病気で、文字通り「イヌのように(comme un chien=可哀想な仕方で)」死んでしまいました。
そんなこともあって、イヌに関連して上記のような否定的な表現が作られたのも、私は何となく納得してしまいます。
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