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征服王ウイリアム(Guillaume le Conquérant)
投稿日:2023年4月20日
こんにちは。バゲットです。
フランス語の勉強を始めてしばらくすると、フランス語には英語とスペリングが全く同じ単語、あるいはよく似た単語が多数存在することに驚くのではないでしょうか。思いつくままに例を挙げれば、table(テーブル)、train(電車)、existence(存在)、important(重要な)・・・。elegance/élégance(優雅さ)、society/société(社会)、cat/chat(ネコ)、chair/chaise(椅子)、reason/raison(理由・理性)、dictionary/dictionnaire(辞書)、economy/économie(経済)・・・。なぜ、フランス語と英語には、これほど多くの類似した(あるいは同一の)綴りの語があるのでしょう。
単語によって個別的な事情はいろいろあるかもしれません。しかしその最大の原因は、イギリスの上流社会で三世紀以上もの間、フランス語が話されていたことです。
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皆さま、高校の世界史の授業で「ノルマン・コンクエスト/la conquête normande de l’Angleterre」について学んだことを、ご記憶のことと思います。1066年、「征服王ウイリアム/Guillaume le Conquérant」がイングランドを征服し、自ら国王となって、「ノルマン朝」を創始した事件です。
さてこの「征服王」、日本では英語風に「ウイリアム」と呼んでいますが、上に書いたように本来の名は「ギヨーム/Guillaume」、フランスのノルマンディー地方に広大な領地を持つ大貴族だったのです。つまり、フランス人の貴族がイングランドを征服し、イングランドの国王になったのがこの出来事だったのです。
単に上流社会の人々が私的に、「日常語」としてフランス語を話していただけではありません。彼らは同時に支配階級だったのですから、イングランドの「公用語」そのものがフランス語になってしまったのです。実際、政治・行政・司法・宗教などの公的文書はすべてフランス語で書かれていました。そうした状況が長く続いて、結果として英語には数多くの仏単語が導入されたのです。その数は10,000にも上ると言われ、内7,500~8,000は現在でも残存しているそうです。
状況が変わるのが「百年戦争」(1337年~1453年)のころ。すでに「ノルマン・コンクエスト」から300年が過ぎており、多くの貴族や騎士や廷臣たちは、何代も前の先祖の時代からイングランドに住んでいます。インランド土着の人たちと縁戚関係を持つ人も多数いたでしょう。彼らは「イングランドこそが自分の故郷」という意識を持っている。そんな中、百年戦争中の1362年、イングランド国王エドワード三世が、それまではフランス語で行われていた議会の開会宣言を、英語で行ったのです。さらに、1399年には新国王のヘンリー四世が即位演説を英語で行い、こうしてイングランドでは再び英語が「公用語」となったのでした。
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さて、英語で牛・豚・羊はそれぞれ、cow、bull/pig/sheepです。ところが、牛肉・豚肉・羊肉は、beef/pork/mutton。すでにフランス語をある程度勉強した方は、これら食肉がフランス語で、boef/porc/moutonと言うことをご存知のことでしょう。もうお気づきのことと思いますが、上記食肉を指す英単語はすべてフランス語から来たものなのです。肉を食べる貴族や騎士たちはフランスからの移民で、フランス語を話していたからです。他方で、その食肉となるべき「家畜」を飼育する農民たちは、土着のイングランド人で、英語を話していました。だから、動物自体を指す語は生粋の英語なのです。言語の二重性が、家畜の呼称と食肉のそれとの二重性に反映されているのですね。ちょっとした「小話」のネタとして、覚えておくとよろしいかと思います。
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