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白いキャベツを作る(faire chou blanc)

投稿日:2021年6月16日

こんにちは。バゲットです。

私が子供のころは、為替レートが固定されていて1ドルが360円もしました。ジェット旅客機は飛んでいましたが、外国に行ったことのある人など、少なくとも私の周囲には一人もいませんでした。
そんな時代でしたから、食通を気取って、自分が本場のフランス料理に精通しているかのように、日本のレストランで提供しているフランス料理を小馬鹿にする文化人(+一般人)もいました。「これは本物のフランス料理ではない、日本人向けに味付けされた偽のフランス料理なのだ」と。
その後、為替が変動相場制になって円が強くなり、誰でもフランスに行けるようになると、日本風フランス料理を軽蔑的に語る人も(ほとんど?)いなくなりました。とは言え、そのことによって料理の内実が変わるわけでもありません。フランス人の友人・知人に尋ねてみると、やはり日本風フランス料理はフランス本国の料理とは味付けが違うようです。
それは逆に言えば、本場のフランス料理には、日本人の口に合わないものもあるということでしょう。実際、私自身、フランス滞在中に食べた料理(大学の学食や街の安いレストランの料理だけですが)の中には、「不味い」と言ったレベルではなく、「とても食べられたものではないw」という一品もありました。
たとえば大学の学食で食べた、10センチくらいのウナギのぶつ切りを赤ワインで煮込んだ料理(←これは不味かったw)。あるいはやはり学食で出てきた、バターライスの上にイカの脚が5本くらい乗った料理(←特別に不味かったわけではないが、その「粗末さ」に驚いたw)。そして極めつけが、ボルドーの下宿の近くのカフェで食べた謎のキャベツ料理です。
膨大なキャベツの千切りを煮込んだ中に豚肉(+ジャガイモ?)が入っていて、これが「絶対的」と言っていいほど口に合わないw。何と言う食べ物なのか知らないのですが、酸っぱくはなかったので「シュークルート/choucroute」ではないと思います。「これが人間の食い物か〜ww」と思いつつ、お金がもったいないので無理して半分だけ食べましたが、それが限界でした。
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さて、「キャベツ」です。フランス語に“faire chou blanc/白いキャベツを作る”という表現があります。いつものようにネットで調べてみると(https://fr.wiktionary.org/wiki/faire_chou_blanc….)、“subir un échec, échouer/挫折する、失敗する”。別のサイトでは、“ne rien gagner/何も獲得しない”。起源はボーリングに似た16世紀のゲームです。一点も取れないことを“coup blanc/白い一撃”と呼んだのですが、この“coup/クー”をフランス中央部のベリー地方では“chou/シュー=キャベツ”と発音していたそうで、そのことから「白い一撃」が「白いキャベツ」にすり替わって、今日まで伝わっている、ということです。

Un chou blanc(faire chou blanc)

具体的な使い方としては、何であれ試み・挑戦に失敗したとき、努力したにもかかわらず結果を得られなかったときに、“J’ai fait chou blanc/まるでダメだったよ”のように言えばよいでしょう。

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以前にも書いたように、私は大学入試で浪人して、第二志望の大学に入学しました。「第二志望」と言っても、「本命」への思い入れが強かったので、前年は受験さえしなかった大学です。まさしく「白いキャベツ/chou blanc」を作ったわけで、一時はひどく落ち込んでいました。
さて、私が修士課程の学生だったとき、浅田彰さんの『構造と力』が切っ掛けになって、知的関心の高い若者の間でフランスの現代哲学が流行しました。特に脚光を浴びたのが三人のスーパースター。ジャック・デリダ(Jacques Derrida)、ミッシェル・フーコー(Michel Foucault)、ジル・ドゥルーズ(Gilles Deleuze)の三人です。
私はドゥルーズがソルボンヌ大学出身であることを知ったときは、すごく驚きました。フランスでは著名な哲学者たちは、そのほとんどがエコール・ノルマル(École normale supérieure/高等師範学校)を卒業しているからです。
調べてみるとドゥルーズは、ノルマルの受験に失敗して、ソルボンヌに入学したのでした。さらに調べてみると、フーコーとデリダはエコール・ノルマルを出ているとはいえ、入学試験ではフーコーが一浪、デリダは何と二年(!)も浪人しています。
この記事を読んでくださっている方の中には、大学入試で第一志望の受験に失敗し、失意の中で滑り止めの大学に入った方もいらっしゃることでしょう。でも、あまり気落ちしなくてもよいと思います。作ったのは、本当に小さな「白いキャベツ/chou blanc」ですから。

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