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ペストとコレラの間で選ぶ(choisir entre la peste et le choléra)

投稿日:2025年4月2日

こんにちは。バゲットです。

この原稿を書いている2月下旬、世間では大学入試たけなわです。毎日、どこかの有名私大のどこかの学部で入学試験があって、首尾良く解答できなかった受験生たちがSNSに「悲鳴」を書き込んでいる様子が、ネットで紹介されています。

近年は大学入試で「浪人」を選択する受験生が激減しているそうですが、私が受験生だったときは事情が違って、膨大な数の浪人生が存在していました。特に私の出身高校などでは、三年生になっても文系/理系のクラス分けがなく、文系の生徒でも「数Ⅲ」や「物理Ⅱ」が必修で、毎日6時間、びっしりと授業が入っていました。そんな状況でしたから、生徒(特に男子)の間では「一年くらい浪人するのは当たり前」という雰囲気があって、私も現役時は滑り止めの大学は受験せず、第一志望の大学一本で行きました。

後になって考えてみれば、それが間違いの元だったのかも知れません(←もし滑り止めに落ちていれば、受験の厳しさも分かったでしょう)。志望校の受験に失敗しても、さしたるショックも受けず、しかも予備校の入学試験(=「クラス分けテスト」)では、国立文系コース12クラスの中で最上位のクラスになったので、「来年は安泰」という気分になってしまったのです。その後も、模擬テストの結果は概ね良好で、「今回は合格できる」と思っていたので、本試験が終わったときには地獄に突き落とされたような気持ちになりました。得意科目で前年は四問中三問解けた数学が、一問しか解けず、もともと苦手だった社会では、世界史、地理(←まさか「日本地理」が出るとは思わなかった)ともに論述問題が一問しか書けず、終わった時点で「不合格」を確信しました。

こうして私は、第二志望の大学(←高校時代、ライバルだなどと思ったことのない同級生が、現役で合格している)に行くか、それとももう一年浪人するか(←現役で入学した人より二年遅れる)という、言わば「究極の選択」を迫られることになったのでした(註・当時、国立大学の入試は一回しかありませんでした)。

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さて、フランス語に“choisir entre la peste et le choléra/ペストとコレラの間で選ぶ”という言い回しがあります。いつものようにネットで検索してみると、“Dilemme où on doit choisir l’une de deux mauvaises choses/二つの悪いものの一方を選ばなければならないジレンマ”(wiktionary)とあります。ほかのサイトの定義もほぼ同様で、まぁ「ペスト」か「コレラ」かどちらか一方を選ばなければならない状況を想像すれば、意味は一目瞭然だと言えるでしょう。

上のサイト(↑)では、例として「核(=原子力発電)のペスト」しか引用されていませんが、「コレラ」の方は地球温暖化を促進する「化石燃料」でしょうか。あるいは、前回のフランス大統領選(2022年)の決選投票で、現職のマクロン大統領と極右・国民連合のマリーヌ・ル・ペン氏が対決したときも、一部の方からは「ペストとコレラ」といった声が上がったようです。

その他、具体的な例に関しては、枚挙のいとまがないでしょう。モラハラ夫に耐えている専業主婦が結婚生活を続けるか、それとも経済的困窮を覚悟の上で離婚するか。肩たたきにあった会社員が退職するか、それとも倉庫に送られて肉体労働に従事するか。さらに、大幅に規模を縮小すれば、大学生が全く興味のない授業に出席するか、それとも単位を放棄するか。子供が学校の給食で嫌いなおかずを食べるか、それとも空腹を我慢するか。私たちは日常的に、「ペストかコレラか」の選択を強いられていると言っても、過言ではないように思います。

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冒頭で書いた私の「ペストかコレラか」は、実は簡単に解消してしまいました。第二志望の大学の合格発表の日、私は高校時代の友人二人とキャンパスで待ち合わせたのです。一人は私に文学の魅力を教えてくれたKくん、もう一人はお父上が小説家というSくん。二人とも典型的な「文学青年」で、学校の勉強は私の方が出来ましたが、「地頭」は私とほぼ同じか、ひょっとすると私よりも良いかもしれないと思っていた友人たちです。結果は、二人とも不合格で、合格したのは私一人。「この二人が落ちるのなら、ここの大学でもいいかなぁ」と思い、入学を決めたのでした。

そのときの選択に関して、私は今でも後悔していませんし、むしろ「良かった」とすら考えています。と言うのは、私はその大学で、生涯の「恩師」となる先生と出会うことができたからです。でも、その話は長くなるので、別の機会に譲りましょう。

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