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スタンダール流女の子の口説き方(la manière stendhalienne de séduire une fille)(2)

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こんにちは。バゲットです。

スタンダール(Stendhal)の『赤と黒(Le rouge et le noir)』で、大貴族ラ・モール侯爵の秘書となったジュリアン・ソレル(Julien Sorel)は、高慢な侯爵令嬢マチルド(Mathilde de La Mole)の侮辱的な言葉に激怒し、壁に掛かった剣に飛びつきます。そして彼が鞘から剣を引き抜くと、マチルドは感動してしまうのです、「私は恋人に殺されそうになったんだわ(J’ai donc été sur le point d’être tuée par mon amant !)」と。
そして自室に戻った彼女は、「うっとりとして(ravie)」、「殺されそうになったという幸福(le bonheur d’avoir été sur le point d’être tuée)」で心が一杯になってしまいます。
ジュリアン・ソレル(Julien Sorel)
なぜそんなふうに考えるのでしょう。普通、殺されそうになって感動してしまうなんて、あり得ないように思いますが。
実を言うと、マチルドは筋金入りの「歴女」、熱狂的な「歴史オタク」だったのです。
彼女が憧れるのは16世紀、当時より150年ほど前の宗教戦争の時代です。そのころ、ラ・モール家の祖先であるボニファス・ド・ラ・モール(註2)は、謀反の疑いで逮捕され、死刑執行人によって斬首されてしまいます。するとボニファスの愛人だった王妃マルグリット・ド・ナヴァール(註3)は、彼の生首を入手し、自らモンマルトルの丘の麓の礼拝堂まで運んで、埋葬するのです(註4)。
マチルドは王妃マルグリットを崇拝しており、彼女のような波瀾万丈の人生を送りたいと考えています。そのため、あまた存在する求婚者たちは、マチルドの目には「平凡(plat)」で「退屈(ennuyeux)」だとしか映りません。そんな彼女の前に現れたのが、農民の息子で美貌の野心家、ジュリアン・ソレルだったのです。
だから彼女は、ジュリアンに興味を持った。そして彼が鞘から剣を抜いたとき、マチルドは感動してしまいます。「殺されそうになった」と思うと、彼女は「シャルル9世やアンリ3世の世紀の最も華やかな時代(=16世紀、宗教戦争の時代)に連れて行かれたような心地がした(Cette idée la transportait dans les plus belles années du siècle de Charles Ⅸ et de Henri Ⅲ)」のです。
(この項続く)

(註1)文中の写真は、テレビドラマ(1998年)でジュリアン・ソレルを演じたイタリア人俳優キム・ロッシ・スチュアート(Kim Rossi Stuart)です。
(註2)調べてみたら、驚いたことに実在の人物(1526年-1574年)でした。
(註3)マルグリット・ド・ヴァロワ(1553年-1615年)。国王アンリ2世と王妃カトリーヌ・ド・メディシスの娘で、「ナントの勅令」(1598年)を発した国王アンリ4世の妻。王妃マルゴとも呼ばれます。文中の「ナヴァール」は即位前の夫の姓。萩尾望都がマンガにしていますので、興味のある方はどうぞ。
(註4)以上は、『赤と黒』作中での説明。他にも「生首に防腐処置をして宝石箱に入れて保存した」など、諸説あるようです。なお、マチルドはこの話を大層気に入っており、小説の末尾でジュリアンが刑死したとき、同じように行動します。

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